『あんぱん』でも目立った朝ドラの自虐的な戦争観と、なぜか反省したがる人々の危うさを憂う【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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『あんぱん』でも目立った朝ドラの自虐的な戦争観と、なぜか反省したがる人々の危うさを憂う【宝泉薫】

 

 その動きの中心にいる政治家について、筆者は姿を見るのも声を聞くのも拒絶している。名前を書くのも不快なので、この記事に写真が使われたりしたら卒倒するかもしれない。ただ、その動きに同調する人たちもいて、それはこうした反省めいた行為がじつは心地よい快楽だからだろう。

 そもそも、彼らとて反省すべき当事者ではなく、そのぶん、お気楽な行為なのだ。この流れは終戦直後に首相を務めた東久邇宮稔彦王による「一億総懺悔」から始まったが、そのときは意味も効果もあった。ケンカに負けた側が謝り、反省をアピールして許しを請うことは、不利益の軽減や立場の回復につながるからだ。

 しかし、強国に復帰し、かつての敵国との仲も修復した時点でその必要はなくなる。そもそも、戦争はそのときどきの利害関係から必然的に生じるもので、どちらが良いわけでも悪いわけでもない。

 局面が変わればそのつど切り替え、時がたてばたつほど、あれは昔の人がやったこととして済ませていくに限る。

 そういう意味で、10年前に当時の安倍晋三首相が発出した「70年談話」は遅まきながら、上手く区切りをつけるものだった。こんな文言が盛り込まれたからだ。

「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」

 これについて、筆者は当時こんな感想をつぶやいていた。 

 

・・・・・・戦争と人間を分けたがる人も多い。戦争は絶対にダメだが、人間は本来ダメじゃない、みたいに。でも、平和を願うのも、戦争に走るのも、同じ「人間性」だという認識を持たないと見えてこないものがある。平和を願うなら、たぶん、なおさら必要な認識。そういえば昨夜、妻に「戦争って何だろうね」と問われ「危険だが、なかなかやめられない伝統的な祭り」にたとえてみた。ただ、二度の大戦、特に最終段階の原爆投下はある意味、世界的な抑止力になってるのでは。人類の平和に、日本は結果として身を挺して貢献してるのかもしれない。昨夜、安倍談話について考えながら、この中にあるように、こういうのはもう終わりにしていいのではと感じた。例年以上に目立ったテレビの戦争特番も、是非論や善悪論でやってると、意見の両極化を助長する弊害があるし。戦後生まれに謝罪を背負わせない云々の文言には、評価と感謝をしたい。あと、安倍首相も戦後生まれなわけで、そのあたりも巧くできてるなと。そういう意味では、村山談話は仕方ないし、今上帝の姿勢もわかるのだけど、次の天皇はもう語る必要はないだろう。そこまで行ってようやく戦後が終わる。本来はサンフランシスコ講和や日中共同声明で大方済んでるはずなのだけど。・・・・・・

 

 10年後の今も、だいたい同じ認識だ。それゆえ、いまだに反省したがる人にはもどかしく感じるし、その共有を強制されてはたまらない。

 こういう反省には、意味も効果もないのだ。むしろ、反省を繰り返すことで平和が保てるというのは、憲法九条さえあれば攻め込まれずに済むというのと同じで、危険な絵空事だろう。建設的な対策を怠らせてしまうという点で、弊害にもつながる。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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